COLUMN
コラム
2026/10/14
透明帯除去培養とは?受精卵の発育不良にお悩みの方へ
「受精はするけれど、その後うまく育ってくれない…」そんなお悩みに対して、近年『透明帯除去培養』という方法が注目を集めています。透明帯を取り除くことで、これまで胚盤胞まで育ちにくかった卵子でも成長が見られるようになり、実際に妊娠・出産につながった例も報告されています。
このコラムでは、現場で日々受精卵と向き合っている胚培養士が、透明帯除去の方法やその効果、当院で受けていただく場合の費用について、わかりやすくお伝えします。
1.透明帯って、そもそも何?
①透明帯は何でできている?
②体の中での透明帯の役割
③体の外での透明帯の役割
2.透明帯除去培養とは?
①なぜ透明帯を取り除くの?
②どうやって取り除くの?
③安全性は大丈夫?
3.当院での透明帯除去培養
①どんな方が対象になる?
②費用と実施できる個数
4.まとめ
1.透明帯って、そもそも何?
①透明帯は何でできている?
透明帯除去培養のお話をする前に、まずは「透明帯」がどんなものなのか、簡単にご紹介します。
透明帯とは、糖タンパク質が集まってできた細胞外マトリックスで、哺乳類の卵子の周りを取り囲んでいます。ヒトの場合、ZP1からZP4という4種類の糖タンパク質が複雑に結びつき合って作られています。
このタンパク質は卵母細胞(卵子のもとになる細胞)自身が作り出すもので、卵胞が育つにつれて少しずつ厚みを増し、成熟した卵子ではおよそ20μmほどになります。

図1. ヒトの卵子と透明帯(→卵子 ▲透明帯)
②体の中での透明帯の役割
透明帯は、卵母細胞とその成長を支える卵丘細胞とのつながりを保つことで、卵母細胞の発育を助けています。
そのほかにも、受精した直後には硬くなることで複数の精子が入り込むことを防いだり、受精卵が卵管や子宮の中を移動するときに割球がバラバラになったり、周りの細胞にくっついてしまったりすることを防ぐ働きもあります。
このように、体の中では透明帯がさまざまな場面で働いており、なくてはならない存在だとわかります。
③体の外での透明帯の役割
体外では、体の中と同じく受精の場面で透明帯が重要な役割を果たします。複数の精子の侵入を防ぐというその働きは、体外受精においても変わりません。
一方で、それ以外の場面では、透明帯は特に必要ではありません。
たとえば採卵の後には、すでに卵母細胞と卵丘細胞のつながりは切れていますし、胚盤胞まで育った受精卵を子宮に戻すときは直接挿入するため、卵管の中で割球が散らばる心配もありません。
強いて言うなら、凍結や融解のときに受精卵を守ってくれる効果はありますが、融解液の組成を工夫することで、透明帯を除去した受精卵でも安全に融解できることがこれまでの報告でわかっています(1)。
さらに、Well of the Well型の培養dish(Linkid micro25)を使うことで、透明帯を除去した受精卵でも効率よく胚盤胞まで育てられることも確認されています(1)。
つまり、体外での受精卵の成長に透明帯は必ずしも必要というわけではありません。
1)辻ら., 2018年日本受精着床学会雑誌
2.透明帯除去培養とは?
①なぜ透明帯を取り除くの?
受精したあと、受精卵と透明帯がくっつく、いわゆる「癒着」が起こることがあります。すると受精卵が分割するときに、その癒着した部分から「フラグメント」と呼ばれる細胞質の断片が多量に出てきてしまい、これがその後の発育の妨げとなって胚盤胞まで育ちにくくなる、ということが報告されています(2)。
そこで、受精卵が分割を始める前に、あらかじめこの癒着を取り除いておくことで、胚盤胞への発育を後押しする、というのが透明帯除去を行う理由です(2)。
(2)Yumoto et al. J Assist Reprod Genet. 2020
②どうやって取り除くの?
透明帯を取り除く方法には、いくつかの種類があります。
・レーザーで透明帯に大きめの穴を開け、細いピペットで受精卵を出し入れしながら透明帯を物理的に剥がしていく方法
・酸や酵素を使って、化学的に透明帯を溶かす方法
・透明帯に小さな穴を開け、受精卵と透明帯の隙間に培養液を吹きかけて癒着を剥がす方法
当院では、この中でも3つ目の「培養液を吹きかけて癒着を剥がす方法」を採用しています。
もう少し詳しくお伝えすると、以下のような流れになります。
1)受精を確認したら、分割が始まる前に高浸透圧の液に浸して受精卵を収縮させる
2)レーザーで透明帯の一部に小さな穴を開ける
3)その穴から細いピペットを差し込み、癒着している部分に強めに培養液を吹きかけて剥がす
4)しっかりと剥離させたうえで、透明帯の外へ受精卵を押し出す

図2. 透明帯除去の方法
③安全性は大丈夫?
透明帯を取り除くこと自体は、危険な処置ではありません。当院をはじめ、多くの施設で「透明帯のない卵子から無事に赤ちゃんが生まれた」という報告があり、除去による明らかな悪影響は基本的にないと考えられています。
ただ、癒着がとても強い場合には、うまく剥がしきれなかったり、卵が変性してしまったりすることもあります。
また、発育の過程でフラグメントが出てくる原因は、受精卵と透明帯の癒着だけとは限りません。そのため、透明帯を除去すれば必ず改善する、というわけではない点もあらかじめご了承ください。
3.当院での透明帯除去培養
①どんな方が対象になる?
これまでのタイムラプス培養で受精卵と透明帯の癒着が確認されていて、なおかつ胚盤胞への発育率がかなり低い方、または受精卵が育つ過程でフラグメントが多量に出てしまい、胚盤胞への発育率がかなり低い方が対象になります。
②費用と実施できる個数
透明帯除去培養に関わる診療は、すべて自由診療となります。
料金は、1個目が基本料金込みで20,000円(税込)、2個目以降は1個あたり10,000円(税込)です。
実施できる個数は最大10個までとなっており、それを超える受精卵については、透明帯を除去せず通常通りの前核期胚凍結を行います。
4.まとめ
透明帯除去培養は、まだ発展途上の技術ではありますが、受精卵の発育がうまくいかないケースに対する新しい選択肢として、期待が寄せられています。
その一方で、発展途上であるからこそ、どんな症例にどれくらい効果があるのか、はっきりとした統一見解がまだないのも事実です。
これからも症例やデータを積み重ねながら、最新の情報を集め、この技術の動向をじっくり見守っていきたいと考えています。
透明帯除去についてご希望やご質問がありましたら、診察のときにお気軽に医師までお伝えください。