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透明帯形態異常の卵子: 受精率・妊娠率に関する当院の研究

透明帯形態異常の卵子: 受精率・妊娠率に関する当院の研究

透明帯の形は卵子を覆うような球状が一般的ですが、時折いびつな形状も見られます。症例によってはすべての卵子が同様のいびつな形状を示すこともあり受精や妊娠への影響が懸念されます。今回は透明帯の形態異常について当院の研究も含めて説明していきます。

【目次】
1. 透明帯とは
2. 透明帯形態異常とは
3. 臨床への影響
4. これまでの研究で明らかになったこと
5. まとめ


1) 透明帯とは

透明帯(= zona pellcida)とは、卵母細胞や卵子、胚の周囲に存在する細胞外マトリクスのことを指します(図1)。透明帯は、一次卵母細胞の時期に形成されはじめ、ヒトにおいては、4種の糖タンパクが複雑に結合し構成されています。

透明帯は卵母細胞の発育促進や物理的な保護作用を有する一方で、受精に際して多精子受精の阻止などの役割を持ちます。

図1. ヒトの卵子と透明帯(→卵子 ▲透明帯)

卵子と精子が受精するためには、精子の先体反応によって精子頭部から酵素が放出され透明帯を通過し、卵細胞内に進入することが必要です。
卵細胞へ精子が進入すると、卵細胞の表層顆粒が放出され透明帯の性質が変化することによって、複数の精子が透明帯を通過することを防ぎます。
これを透明帯反応と呼び、多精子受精を防ぐ機構の一つとなります。

また、透明帯は精子に対して種特異的な受容体として機能し、異なる動物種の精子は透明帯に結合(進入)できないようになっています。


2) 透明帯形態異常とは

一般的な卵子(図2左)と比較して、透明帯の形が大きく異なる卵子が見られることがあります。
よくみられる形態としては、透明帯がいびつな形や、楕円型をしているものがあります。しかし、まれに透明帯がトゲトゲした突起状の形(図2:中央)や、いくつかの層が重なったような層状の形(図2:右)をしている場合もあります。
当院では、このような形態の卵子を透明帯形態異常として定義しており、採卵を行った約700人に1人の割合で確認されます。

図2: 一般的な形態の卵子(左)と透明帯形態異常を持つ卵子(中央・右)

透明帯形態異常を持つ卵子には、次のような特徴がみられます。1)
• 囲卵腔が狭い※
• 極体が観察しづらい
• 透明帯に突起がある (突起状の透明帯の場合)
• 質感が異なる層が重なって見える (層状の透明帯の場合)
• 透明帯が柔らかく、顕微授精時に抵抗が感じられない
※囲卵腔…透明帯と細胞質の間にある隙間のこと
1)第68回日本生殖医学会学術講演会・総会 野老


3) 臨床への影響

受精操作は、極体が観察できた成熟卵子に対して行いますが、透明帯形態異常を持つ卵子では極体が観察しづらく、受精操作が可能かどうかの判断が難しい場合があります。

また、透明帯形態異常を持つ卵子は透明帯の抵抗がほとんどないため、顕微授精を行う際には、精子を注入するための針を慎重に押し進める必要があります。

当院では、このような突起状や層状の透明帯形態異常を持つ卵子でも、妊娠・出産が可能となるような治療方針を提案するため、研究を進めています。

4) これまでの研究で明らかになったこと

① 未熟卵子に見えても、実は成熟卵子である可能性がある

透明帯形態異常を持つ卵子は、囲卵腔が非常に狭く、極体が見つけづらいため、外見上は未成熟な卵子に見えることがあります。しかし、研究の結果、外見上未成熟に見える卵子でも、実際には成熟卵子の場合があることがわかりました。(図2、改変: Fukunaga et al., J. Mamm. Ova Res. 2020

 

図3: 透明帯形態異常を持つ卵子と一般的な未成熟卵子との比較
(Fukunaga et al., J. Mamm. Ova Res. 2020より改変)

② 透明帯形態異常を持つ卵子では、一般的な卵子と比較して正常受精率が低い2)

当院の研究結果から、透明帯形態異常を持つ卵子は、一般的な卵子と比較して正常受精率が低いことがわかりました。図4左のグラフは顕微授精での正常受精率、右のグラフは体外受精での正常受精率を表しています。どちらの受精方法においても、透明帯形態異常を持つ卵子は、正常な卵子と比べて受精率が低いということが確認されました。
2)第61回日本卵子学会学術集会 平尾

図4: 各受精方法における正常受精率の比較

③ 受精方法によって受精率に差が見られる3)

透明帯形態異常を持つ卵子では、体外受精よりも顕微授精で受精率が高いことが明らかになっています(図5)。なぜ受精がしづらいのかについては明確な原因は不明ですが、透明帯の異常により精子が透明帯に付着しにくくなるため、不受精になる可能性が考えられます。

そのため、透明帯形態異常を持つ卵子の場合、より多くの受精卵を得るためには、顕微授精を選択することが望ましいと考えられます。
3)第68回日本生殖医学会学術講演会・総会 野老

図5: 透明帯形態異常を持つ卵子における受精方法別の受精率比較

④ 透明帯形態異常が見られても妊娠・出産に影響はみられない4)

透明帯形態異常を持つ卵子を移植された患者様においても、妊娠し、出産に至った報告があります。また、妊娠率、流産率、出産率のいずれも、一般的な卵子と同等の成績であることが確認されました(図6)
このことから、透明帯形態異常を持つ症例でも、正常な受精卵を得ることができれば、妊娠・出産への影響がみられないことがわかりました。
4)第68回日本生殖医学会学術講演会・総会 野老

図6: 妊娠率、流産率、出産率の比較


5) まとめ

透明帯形態異常を持つ卵子について、徐々に理解が進んできていますが、いまだに解明されていない部分も数多くあります。

当院では今後、透明帯形態異常が受精後の胚の成長にどのような影響を及ぼすかを研究していく予定です。また、透明帯形態異常を持つ卵子の透明帯構造が、通常の卵子とどのように異なるのか、詳細を解明していくことを目指します。

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