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COLUMN

抗核抗体と不妊治療 への影響

抗核抗体と不妊治療 への影響

不妊治療中に「成熟卵が採れない」「異常受精が多い」といったお悩みはありませんか?その原因として抗核抗体が関係している可能性があります。このコラムでは、抗核抗体と不妊治療への影響について解説します。

1) 抗核抗体(Anti-nuclear antibody: ANA)
2) 抗セントロメア抗体(Anti-centromere antibody: ACA)
3) 抗核抗体検査
4) ACAの治療成績
5) 治療方針


1) 抗核抗体(Anti-nuclear antibody: ANA)

私たちの体には、細菌やウイルスといった外敵から身を守るために「抗体」という防御システムが備わっています。抗体は、体内で自己と非自己を識別し、非自己を攻撃します。しかし、何らかの原因で自己を攻撃するようになった抗体を「自己抗体」と呼びます。その中でも、細胞の核(図1)を標的にする抗体を「抗核抗体」と言います。
抗核抗体は、全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患を発症している患者さんで高頻度に検出されることで知られています。しかし、必ずしもこれらの病気を発症するわけではなく、健康な方でも20~30%の割合で陽性になることが分かっています。抗核抗体には様々な種類がありますが、一部の種類は卵子の成熟率や受精率に影響を与えることが知られています。

図1. 細胞模式図
細胞の構造を模式的に示したもので、核を中心に細胞膜や細胞小器官が配置されている様子を表しています。


2) 抗セントロメア抗体(Anti-centromere antibody: ACA)

抗核抗体の中でも特に成熟率や受精率に影響するのが抗セントロメア抗体(ACA)です。セントロメアとは、染色体の中心部分を指し(図2)、細胞分裂の際に染色体を正しく分配するために重要な役割を担っています。ACA陽性の方では、抗体がこのセントロメア領域に反応します。

図2. 細胞分裂とセントロメアの模式図
染色体はDNAで構成され、ヒトでは46本(23対)からなります。染色体は長腕と短腕に分かれており、この構造が遺伝情報の伝達や細胞分裂の過程において重要な働きを担っています。セントロメアが微小管と結合することで、染色体が2つに分かれ、正確に新しい細胞に受け継がれます。


3) 抗核抗体検査

当院では、体外受精などの生殖補助医療(ART)を開始する前に抗核抗体検査を実施しています(※自費診療のみ対象)。この検査では、採取した血液から抗核抗体の有無や抗体の量(抗体価)、抗核抗体のおおまかな種類を調べることができます。当院では、検査結果をもとに3つのグループに分類をしています(図3A)。当院でARTを受けられた方のうち、約1%が抗セントロメア抗体陽性であることがわかりました(図3B)

図3. 抗核抗体検査結果と分類
A 抗核抗体検査結果をもとにした分類図
B 抗核抗体検査結果をもとにした抗体グループの割合


4) ACAが治療に及ぼす影響

ACAが卵子の成熟や受精に及ぼす影響について、当院のデータをもとに解説します。
① 卵子成熟率が低い
顕微授精(ICSI)を行う前に、卵子の成熟判定を行います。具体的には、GV期やMI期の卵子を未熟卵、MII期の卵子を成熟卵と判定し、成熟卵にのみ受精操作を行います(図4A)。当院の研究では、ACA陽性の方は抗核抗体陰性(ANA(-))やACA以外の抗核抗体陽性の方(ANA(+))と比較して、卵子成熟率が低いという結果が得られています(図4B)。

図4 卵子成熟率への影響
A 卵子成熟段階と受精操作の対象
B 抗体グループのごとの卵子成熟率


② 多前核形成が起きやすい
多前核形成とは、受精後に通常の2つの前核ではなく、3つ以上の前核が形成される状態を指します(図5A)。ACA陽性の方は、その他の方と比較して多前核形成の発生率が高いことがわかっています(図5B)

図5. 多前核形成への影響
A 多前核形成胚と正常受精卵の模式図
B 抗体グループのごとの多前核形成率
1)野老ら、 第109回日本繁殖生物学会大会

6) 治療方針

現在、ACA陽性の方に対する有効な治療法は確立されていません。しかし、当院のデータによると、移植まで進んだACA陽性症例の方のうち約4割が妊娠に至っているという結果が得られています3)。このことは、正常な受精卵を得ることができれば、妊娠の可能性は十分にあることを示しています。そのため、当院では移植の機会を増やすために、多くの卵子を採取することが重要であると考えています。
抗核抗体に関するご質問がある方は診察室のスタッフまでお声がけください。
3)木田ら、第38回日本受精着床学会

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