浅田生殖医療研究所
正常受精の決め手!紡錘体(ぼうすいたい)で決める顕微授精のタイミング
掲載日:2019年6月 7日
浅田レディースクリニックでは開院以来、妊娠という結果を重視した研究を数多くの研究を学会や論文で発表してきました。このコーナーではそれらの研究を皆様に知っていただくことを目的にわかりやすく簡単に解説していきたいと考えています。
研究紹介の第一弾のテーマは「卵子の成熟と受精のタイミング」についてです。妊娠するためには一つでも多くの受精卵を獲得し移植することが重要です。今回はその受精卵を一つでも多く得るために受精のタイミングを検討した研究についてご紹介します。
体外受精のために採卵された卵子はその多くが成熟した状態です。この「成熟した状態」とは具体的にどのような状態で、卵子を取り扱う胚培養士が「成熟」をどのように判定しているのか、さらには卵子の成熟が受精後の正常受精率にどのような影響を与えるのかについて解説していきます。
採卵された卵子の多くはM II期と呼ばれる状態で、特徴として極体があることや紡錘体があることなどがあげられます(図1)。

紡錘体は細胞が分裂する際に染色体を各細胞に分離する働きをします。受精前の成熟した卵子の染色体は紡錘体に囲まれて一か所にまとまって存在しています(図2a)。

卵子の成熟は極体と呼ばれる卵子から放出された染色体と細胞質の塊(図2b)によって判断されますが、紡錘体の有無も成熟を判断する基準になります。
しかしながら、紡錘体は通常の顕微鏡では観察することがとても難しいため、多くの場合、簡単に観察できる極体によっての卵子成熟を判断しています。
患者さまの卵子の中には、極体だけでは正確に成熟を判断できない方がいらっしゃいます。
そういった方々の卵子は受精操作をしても異常受精になってしまうことがあります。そこで当院では、異常受精が多くみられる患者さまの卵子について紡錘体も観察できる特殊な顕微鏡での観察を行っています(図3a)。この特殊な顕微鏡では、通常の顕微鏡では観察できない紡錘体を卵子が生きたままの状態で観察することができます(図3b)。

当院ではこれまでにこの特殊な顕微鏡を使って観察した際の紡錘体の有無が顕微授精を行うタイミングの指標になるという研究発表をしています。
この研究では、まず採卵後の卵子の紡錘体を特殊な顕微鏡で観察し、紡錘体が見えた卵子と見えなかった卵子で分類し、その後の受精率を比較しました。その結果、紡錘体が見えた卵子のほうが、見えなかった卵子よりも正常受精率が高いことが明らかになりました(図4)。

また、採卵直後は紡錘体がみえなかった卵子でも、数時間培養することによって紡錘体が観察できるようになり、これらの卵子では採卵直後に紡錘体がみえた卵子と同等の正常受精率を示すことを明らかにしています(図5)。

このように卵子の成熟を正確に判断し、適したタイミングで受精を行うことが移植可能な受精卵を得るためには重要です。
これらの研究成果は下の論文や学会で発表されています。
1.北坂浩也, 福永憲隆, 永井利佳, 服部久美子, 桑原真弓, 佐々木美緒, 吉村友邦, 糸井史陽, 田村総子, 園原めぐみ, 立木都, 塩沢直美, 佐野美保, 羽柴良樹, 浅田義正, 紡錘体はICSIのタイミングの指標になるか?, 本受精着床学会雑誌 26: 1, 24-27 (2008)
2.北坂浩也, 福永憲隆, 永井利佳, 吉村久美子, 佐々木美緒, 吉村友邦, 糸井史陽, 田村総子,北村久美子, 長谷川望, 森下佳世子, 加藤道高, 中山要, 浅野恵美子, 園原めぐみ, 立木都, 桑原真弓, 東光子, 守谷陽子, 山本恵, 各務好美, 清水幸子, 佐野美保, 羽柴良樹, 浅田義正, 紡錘体が受精に及ぼす影響, 日本IVF学会 (2009) ※学会奨励賞受賞
3.北坂浩也, 福永憲隆, 永井利佳, 吉村久美子, 佐々木美緒, 吉村友邦, 糸井史陽, 田村総子, 長谷川望, 森下佳世子, 桑原真弓, 園原めぐみ, 浅田義正, 紡錘体に着目した不受精卵子の解析 -受精障害・低受精症例への対応- 日本哺乳動物卵子学会 (2009)
4.H. Kitasaka, N. Fukunaga, R. Nagai, K. Yoshimura, Y. Hashiba, Y. Asada, Analysis of fertilization failure via examination of the mitotic spindle: treatment for fertilization failure and low fertilization rate. American Society for Reproductive Medicine (2009)
5.北坂浩也, 福永憲隆, 永井利佳, 吉村友邦, 糸井史陽, 田村総子, 北村久美子, 園原めぐみ, 立木都, 佐野美保, 羽柴良樹, 浅田義正, 紡錘体の可視が臨床成績に及ぼす影響 -採卵初回の症例への対応-, 日本受精着床学会雑誌 27: 1, 147-150 (2010)
6.北坂浩也, 福永憲隆, 永井利佳, 吉村友邦, 糸井史陽, 田村総子, 北村久美子, 長谷川望,加藤道高, 中山要, 竹内基子, 青柳奈央, 大野浩史, 児嶋瑛子, 浅野恵美子, 出口夏海, 本間寛之, 佐野美保, 羽柴良樹, 小栗久典, 浅田義正, 紡錘体に着目した不受精卵子の解析 -受精障害・低受精症例への対応- 日本IVF学会 (2010)
7.北坂浩也, 福永憲隆, 永井利佳, 吉村友邦, 糸井史陽, 田村総子, 北村久美子, 長谷川望,加藤道高, 中山要, 浅野恵美子, 本間寛之, 佐野美保, 羽柴良樹, 小栗久典, 浅田義正, 紡錘体が臨床成績に及ぼす影響 -患者背景による対象症例の限定は可能か-, 中部生殖医学会 (2010)
8.H. Kitasaka, N. Fukunaga, R. Nagai, T. Yoshimura, F. Tamura, K. Kitamura, N. Hasegawa, K. Nakayama, M. Katou, F. Itoi, E. Asano, N. Deguchi, K. Ooyama, Y. Hashiba, and Y. Asada. Analysis of fertilization failure via examination of mitotic spindle: treatment for fertilization failure and low fertilization rate, European Society of Human Reproduction and Embryology (2011)
9.北坂浩也, 福永憲隆, 吉村友邦, 田村総子, 長谷川望, 加藤道高, 中山要, 青柳奈央, 大野浩史, 渡邊紘之, 木田雄大, 小森佑奈, 小沼よしみ, 下村海咲, 野老美紀子, 木下孝一, 近藤麻奈美, 薬師義弘, 羽柴良樹, 浅田義正, 紡錘体が可視化できなかった卵子の異常受精卵解析 ~研究解析から臨床への還元~, 日本受精着床学会 (2014)
研究紹介の第一弾のテーマは「卵子の成熟と受精のタイミング」についてです。妊娠するためには一つでも多くの受精卵を獲得し移植することが重要です。今回はその受精卵を一つでも多く得るために受精のタイミングを検討した研究についてご紹介します。
体外受精のために採卵された卵子はその多くが成熟した状態です。この「成熟した状態」とは具体的にどのような状態で、卵子を取り扱う胚培養士が「成熟」をどのように判定しているのか、さらには卵子の成熟が受精後の正常受精率にどのような影響を与えるのかについて解説していきます。
採卵された卵子の多くはM II期と呼ばれる状態で、特徴として極体があることや紡錘体があることなどがあげられます(図1)。

紡錘体は細胞が分裂する際に染色体を各細胞に分離する働きをします。受精前の成熟した卵子の染色体は紡錘体に囲まれて一か所にまとまって存在しています(図2a)。

卵子の成熟は極体と呼ばれる卵子から放出された染色体と細胞質の塊(図2b)によって判断されますが、紡錘体の有無も成熟を判断する基準になります。
しかしながら、紡錘体は通常の顕微鏡では観察することがとても難しいため、多くの場合、簡単に観察できる極体によっての卵子成熟を判断しています。
患者さまの卵子の中には、極体だけでは正確に成熟を判断できない方がいらっしゃいます。
そういった方々の卵子は受精操作をしても異常受精になってしまうことがあります。そこで当院では、異常受精が多くみられる患者さまの卵子について紡錘体も観察できる特殊な顕微鏡での観察を行っています(図3a)。この特殊な顕微鏡では、通常の顕微鏡では観察できない紡錘体を卵子が生きたままの状態で観察することができます(図3b)。

当院ではこれまでにこの特殊な顕微鏡を使って観察した際の紡錘体の有無が顕微授精を行うタイミングの指標になるという研究発表をしています。
この研究では、まず採卵後の卵子の紡錘体を特殊な顕微鏡で観察し、紡錘体が見えた卵子と見えなかった卵子で分類し、その後の受精率を比較しました。その結果、紡錘体が見えた卵子のほうが、見えなかった卵子よりも正常受精率が高いことが明らかになりました(図4)。

また、採卵直後は紡錘体がみえなかった卵子でも、数時間培養することによって紡錘体が観察できるようになり、これらの卵子では採卵直後に紡錘体がみえた卵子と同等の正常受精率を示すことを明らかにしています(図5)。

このように卵子の成熟を正確に判断し、適したタイミングで受精を行うことが移植可能な受精卵を得るためには重要です。
これらの研究成果は下の論文や学会で発表されています。
1.北坂浩也, 福永憲隆, 永井利佳, 服部久美子, 桑原真弓, 佐々木美緒, 吉村友邦, 糸井史陽, 田村総子, 園原めぐみ, 立木都, 塩沢直美, 佐野美保, 羽柴良樹, 浅田義正, 紡錘体はICSIのタイミングの指標になるか?, 本受精着床学会雑誌 26: 1, 24-27 (2008)
2.北坂浩也, 福永憲隆, 永井利佳, 吉村久美子, 佐々木美緒, 吉村友邦, 糸井史陽, 田村総子,北村久美子, 長谷川望, 森下佳世子, 加藤道高, 中山要, 浅野恵美子, 園原めぐみ, 立木都, 桑原真弓, 東光子, 守谷陽子, 山本恵, 各務好美, 清水幸子, 佐野美保, 羽柴良樹, 浅田義正, 紡錘体が受精に及ぼす影響, 日本IVF学会 (2009) ※学会奨励賞受賞
3.北坂浩也, 福永憲隆, 永井利佳, 吉村久美子, 佐々木美緒, 吉村友邦, 糸井史陽, 田村総子, 長谷川望, 森下佳世子, 桑原真弓, 園原めぐみ, 浅田義正, 紡錘体に着目した不受精卵子の解析 -受精障害・低受精症例への対応- 日本哺乳動物卵子学会 (2009)
4.H. Kitasaka, N. Fukunaga, R. Nagai, K. Yoshimura, Y. Hashiba, Y. Asada, Analysis of fertilization failure via examination of the mitotic spindle: treatment for fertilization failure and low fertilization rate. American Society for Reproductive Medicine (2009)
5.北坂浩也, 福永憲隆, 永井利佳, 吉村友邦, 糸井史陽, 田村総子, 北村久美子, 園原めぐみ, 立木都, 佐野美保, 羽柴良樹, 浅田義正, 紡錘体の可視が臨床成績に及ぼす影響 -採卵初回の症例への対応-, 日本受精着床学会雑誌 27: 1, 147-150 (2010)
6.北坂浩也, 福永憲隆, 永井利佳, 吉村友邦, 糸井史陽, 田村総子, 北村久美子, 長谷川望,加藤道高, 中山要, 竹内基子, 青柳奈央, 大野浩史, 児嶋瑛子, 浅野恵美子, 出口夏海, 本間寛之, 佐野美保, 羽柴良樹, 小栗久典, 浅田義正, 紡錘体に着目した不受精卵子の解析 -受精障害・低受精症例への対応- 日本IVF学会 (2010)
7.北坂浩也, 福永憲隆, 永井利佳, 吉村友邦, 糸井史陽, 田村総子, 北村久美子, 長谷川望,加藤道高, 中山要, 浅野恵美子, 本間寛之, 佐野美保, 羽柴良樹, 小栗久典, 浅田義正, 紡錘体が臨床成績に及ぼす影響 -患者背景による対象症例の限定は可能か-, 中部生殖医学会 (2010)
8.H. Kitasaka, N. Fukunaga, R. Nagai, T. Yoshimura, F. Tamura, K. Kitamura, N. Hasegawa, K. Nakayama, M. Katou, F. Itoi, E. Asano, N. Deguchi, K. Ooyama, Y. Hashiba, and Y. Asada. Analysis of fertilization failure via examination of mitotic spindle: treatment for fertilization failure and low fertilization rate, European Society of Human Reproduction and Embryology (2011)
9.北坂浩也, 福永憲隆, 吉村友邦, 田村総子, 長谷川望, 加藤道高, 中山要, 青柳奈央, 大野浩史, 渡邊紘之, 木田雄大, 小森佑奈, 小沼よしみ, 下村海咲, 野老美紀子, 木下孝一, 近藤麻奈美, 薬師義弘, 羽柴良樹, 浅田義正, 紡錘体が可視化できなかった卵子の異常受精卵解析 ~研究解析から臨床への還元~, 日本受精着床学会 (2014)
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